クレートトレーニングとは、クレート(扉のついた持ち運びできる犬用ハウス)の中で、愛犬が安心して過ごせるように慣らす練習のことです。

「言葉は聞いたことがあるけれど、狭い場所に閉じ込めるようでかわいそう」と感じている飼い主様は多いのではないでしょうか。

実は、クレートに慣れておくことは、地震や台風などの災害から愛犬の命を守る大切な備えになります。決して「閉じ込めるためのしつけ」ではありません。

私はJKC公認訓練士・愛玩動物看護師として、日々のシッティングやしつけのご相談の中で、クレートに慣れている子とそうでない子の差を何度も目にしてきました。クレートが「安心できる自分の部屋」になっている子は、環境の変化があっても落ち着いて過ごせる傾向があります。

この記事では、災害時にクレートが愛犬を守ってくれる理由と、訓練士が実践しているトレーニングの手順を、つまずきやすいポイントの対処法とあわせてまとめました。成犬からでも間に合いますので、台風シーズンが本格化する前にぜひ始めてみてください。

クレートトレーニングとは「安心できる自分の部屋」をつくる練習です

クレートと聞くと、「ケージよりさらに狭い箱」という印象を持つ方が多いかもしれません。しかし、犬にはもともと、体がすっぽり収まる狭くて薄暗い場所を寝床として好む傾向があります。

正しく慣らしてあげれば、クレートは窮屈な箱ではなく、愛犬にとって落ち着ける「自分の部屋」になります。その状態をつくるための練習が、クレートトレーニングです。

災害への備え以外にも、クレートトレーニングには次のようなメリットがあります。

  • 動物病院への通院やお出かけの移動が楽になる
  • 来客時や休ませたいときに、落ち着ける場所ができる
  • ペットホテルやペットシッター利用時のストレスが減る

動物病院での診療補助の経験でも、クレートに慣れている子は診察の待ち時間も落ち着いていることが多いと感じていました。
通院ストレスの軽減は、健康管理の面でも大きな利点です。

「クレートは災害時の命綱」愛犬を守ってくれる3つの場面

クレートトレーニングの価値が最もはっきり分かるのが、災害時です。クレートがどんな場面で愛犬を守ってくれるのかを整理します。

場面クレートが役立つ理由
避難所での生活ペットを受け入れている避難所では、飼い主様とは別のスペースで、ケージやクレートに入って過ごすルールになることが多くあります。クレートに慣れていないと、避難生活そのものが難しくなることがあります
揺れや大きな音への恐怖地震や雷のとき、犬はパニックになって走り回ったり、外へ飛び出したりすることがあります。慣れたクレートは「逃げ込める安全基地」になります
車での移動・一時避難車で避難するとき、クレートに入れることで急ブレーキ時の事故や飛び出しを防げます

環境省が公表している「人とペットの災害対策ガイドライン」でも、災害時はペットと一緒に避難する「同行避難」が基本とされています。ただし、ペットの受け入れ可否や飼育場所、必要な持ち物は、自治体や避難所ごとに異なります。宗像市・福津市周辺にお住まいの方は、福岡県の「ペットと同行避難ができる避難所について」のページや防災アプリ「ふくおか防災ナビ・まもるくん」、各市の防災情報で、避難所とルールを事前に確認しておきましょう。

そのうえで、同行避難がスムーズにできるかどうかは「クレートに入れるかどうか」で大きく変わります。避難所で鳴き続けたり、クレートを嫌がって暴れたりすると、愛犬にも飼い主様にも大きな負担がかかります。

災害はいつ起こるか分かりません。
「うちの子はクレートが苦手」のままにしないことが、何よりの備えになります。

愛犬に合うクレートの選び方|広すぎず狭すぎないサイズが基本です

トレーニングを始める前に、クレート選びのポイントを押さえておきましょう。

  • サイズ:中で頭を下げずに立ち上がれて、無理なく方向転換でき、伏せて休める大きさが基本です。子犬のトイレトレーニング中は、広すぎると寝床と排泄場所を分けて使ってしまうことがあるため、成長に合わせて仕切りで調整する方法もあります
  • 素材:災害時の持ち出しを考えると、丈夫なプラスチック製(ハードタイプ)が候補になります。ただし避難所や夏場の使用では通気性も大切なため、風の通りやすさや掃除のしやすさもあわせて確認しましょう
  • 置き場所:エアコンの風や直射日光の当たらない静かな場所に常設します

災害時だけ押し入れから出してくるのではなく、普段の生活の中に「いつもそこにある寝床」として置いておくことが、トレーニング成功の土台になります。

訓練士が実践する「クレートトレーニング5つのステップ」

ここからは、私が実際のしつけサポートで行っている手順をご紹介します。これから子犬を迎えるご家庭や、今まさに子犬と暮らしているご家庭では、成犬になってからではなく、いろいろなことを吸収しやすいパピーの時期からトレーニングを始めてあげることが大切です。

ステップ1:扉を外して(開けたままにして)存在に慣らす

まずはクレートの扉を開け放し、部屋に置いておくだけで構いません。近づいたり、においを嗅いだりしたら、静かに褒めてあげてください。

ステップ2:おやつで誘導して「入ると良いことがある」を教える

クレートの入り口付近、次に奥へとおやつを置き、自分から入る経験を重ねます。無理に押し込むことは決してしないでください。

ステップ3:「ハウス」の合図と結びつける

自分から入れるようになったら、入る直前に「ハウス」と声をかけ、入れたら褒めておやつをあげます。「ハウス=良いことが起こる合図」として覚えてもらいます。

ステップ4:扉を閉める時間を数秒から少しずつ延ばす

最初は扉を閉めてすぐ開ける程度から始め、閉めている時間を数秒→数分と延ばしていきます。落ち着いて過ごせたら、扉を開ける前に褒めてあげてください。

ステップ5:食事や休憩など、生活の中でクレートを使う

食事をクレートの中であげたり、昼寝の場所として使ったりして、日常に組み込みます。ここまで来れば、移動や災害時にも「いつもの寝床」として安心して入れるようになります。

進み方には個体差があり、数日で慣れる子もいれば数か月かかる子もいます。
どのステップにも共通するのは、一度も「怖い思い・嫌な思い」をさせずに進めることです。

「吠える・夜鳴きする・入らない」つまずき別の対処法

ご相談の多いつまずきと対処法をまとめました。

入れると吠える・鳴く

鳴いたらすぐに出すことを繰り返すと、「鳴けば出られる」と覚えてしまうことがあります。ただしその前に、排泄がしたい・暑い・どこかが痛いなど、鳴くこと自体に理由がないかをまず確認してください。

体調や環境に問題がなければ、静かになった瞬間を待って扉を開け、「静かにしていると良いことがある」経験を積ませてあげましょう。

そもそも鳴くまで入れておかないことも大切です。扉を閉める時間が長すぎないか、ステップを見直してみてください。

夜だけ落ち着かない

寝る場所が急に変わると不安になる子が多いため、まずは日中の短い昼寝から始めます。飼い主様の気配を感じられる位置にクレートを置くと、落ち着きやすくなります。

そもそもクレートに近づかない

過去にクレートで嫌な経験(無理に入れられた・長時間の閉じ込めなど)をしている可能性があります。クレートの中でおやつを見つける「宝探し」のような遊びから、時間をかけてやり直してみてください。

不安が強い子は、無理に触ったり近づけたりせず、その子が安心できる距離から始めることが大切です。スキンシップで落ち着く子もいれば、触られることがかえって負担になる子もいるため、表情や体のこわばりを見ながら進めてください。

不安のサインの読み取り方と落ち着かせるケアの方法は、愛犬の不安を和らげる魔法のマッサージとサインで詳しくご紹介しています。

成犬・シニア犬からでも間に合います

「もう成犬だから手遅れでは」というご質問をよくいただきますが、クレートトレーニングは何歳からでも始められます。

子犬より時間はかかる傾向がありますが、進め方は同じです。焦らず、その子のペースでステップを踏めば、成犬でもシニア犬でも「自分の部屋」を覚えられます。

ただし、シニアの子が急にクレートを嫌がるようになった場合は、足腰の痛みや視力・聴力の低下、排泄間隔の変化が理由になっていることもあります。入るときに痛そうなそぶりを見せるときは、トレーニングだけで解決しようとせず、動物病院で体調も確認してもらいましょう。

怖がりな性格の子への慣らし方は、社会化期を過ぎても大丈夫!怖がりな愛犬を少しずつ慣らすコツでも詳しくご紹介しています。

シニアの子は、1回の練習時間を短くして回数を分けてあげるのがコツです。
年齢を理由にあきらめる必要はありません。

夏の災害には「暑さ対策」もセットで考えてください

7月からの台風・豪雨シーズンは、暑さとの闘いでもあります。夏の避難では、クレート内の熱中症リスクに注意が必要です。

  • クレートは風通しの良い日陰に置き、直射日光を避ける
  • 保冷剤は必ずタオルなどで包み、噛んで中身を出していないかこまめに確認する。誤飲が心配な子には、クレートの中に入れず外側から冷やす方法や冷感マットを検討する
  • 車での避難時は、短時間でも車内に置き去りにしない

暑い時期のサインの見分け方と応急処置は、夏に備えよう!「犬の熱中症」のサインと応急処置を看護師が解説にまとめています。あわせて確認しておくと、夏の災害への備えがより確かなものになります。

まとめ|クレートは「閉じ込める箱」ではなく「命を守る部屋」

最後に、この記事のポイントを振り返ります。

  • ペットを受け入れる避難所ではクレートで過ごすことが多いため、クレートに慣れていることが同行避難の土台になる
  • 受け入れの可否やルールは自治体・避難所ごとに異なるため、「ふくおか防災ナビ・まもるくん」や各市の防災情報で事前に確認する
  • クレートトレーニングは「安心できる自分の部屋」をつくる練習であり、閉じ込めるしつけではない
  • 手順は「存在に慣らす→おやつで誘導→合図と結びつける→扉を閉める時間を延ばす→生活の中で使う」の5ステップ
  • 鳴いたらすぐ出すことを繰り返さない。ただし排泄や体調など、鳴く理由の確認が先
  • 成犬・シニア犬からでも始められる(急に嫌がるときは体調確認を)
  • 夏の災害には暑さ対策もセットで備える

災害への備えは、特別なことを一度にやるのではなく、毎日の暮らしの中で少しずつ積み重ねるものです。今日、クレートの扉を開けて部屋に置くことから始めてみてください。

クレートトレーニングのご相談はHONEYへ

「自分でやってみたけれどうまく進まない」「うちの子に合った進め方を知りたい」という方は、Pet Life Support HONEYにご相談ください。

JKC公認訓練士・愛玩動物看護師の資格を持つスタッフが、宗像市・福津市を中心に、その子の性格に合わせたクレートの慣らし方をお手伝いします。お留守番中のシッティングでも、クレートでの過ごし方を含めてようすを丁寧にご報告いたします。

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